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ネイチャーポジティブとサーキュラーエコノミーの融合が拓く新しい社会

NP HUB×ESA Special Dialogue

2026年、東北大学ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点と一般社団法人エコシステム社会機構(ESA)が連携協定を締結。一見異なる領域にも見える「ネイチャーポジティブ」と「サーキュラーエコノミー」ですが、両者の対話から見えてきたのは、驚くべき共通点と、互いに補完し合う可能性でした。
本対談では、東北大学の近藤倫生氏とESAの末次貴英氏が、それぞれの取り組みと、連携によって目指す未来について語り合います

近藤 倫生

東北大学 ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点 拠点長
東北大学大学院 生命科学研究科 統合生態研究室 教授

2001年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。龍谷大学講師・准教授・教授を経て、2018年より現職。環境DNA学会会長、日本生態学会理事、個体群生態学会理事。日本生態学会宮地賞(2004年)、Akira Okubo Prize(2011, 日本数理生物学会・Society for Mathematical Biology)、文部科学大臣表彰若手科学者賞(2013)等受賞。数理・統計モデルなどを利用した解析手法を用いて、「環境DNA」などの生態系関連のデータを収集して生態学的現象の本質に迫るべく理論化を目指して日々研究に取り組んでいる。

末次 貴英
エコシステム社会機構(ESA)代表理事
アミタホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼 CIOO
2005年アミタ合流後、未利用地を活かして持続可能な酪農と6次産業化を行う「森林ノ牧場」事業の開発やサステナブル経営への統合支援等に携わる。2023年にアミタHD代表取締役社長 兼 CIOO、2024年にESA代表理事に就任。趣味はラグビー、アイスホッケー、ご飯。
webメディア:経済性と社会性の両立を目指す仲間との対談「しまうまトーク」
https://www.amita-hd.co.jp/vision/zebratalk

ファシリテーター:小田切 裕倫
東北大学 ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点
社会実装部門統括 / ビジョナライザー

東京生まれ。2014年に佐賀県唐津市へ移住。地域を舞台に「環境・暮らし・ビジネス」をつなぐ場と物語をデザインし、グリーンビジネスや地域活性、コスメなど多分野のプロジェクトを展開。2025年7月より、東北大学ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点(NP拠点)に参画。仙台を中心とした3拠点生活になる。地域のリアルと未来像のあいだを行き来しながら、ネイチャーポジティブな社会に向けた、人と自然と科学の新たな関係性を編み出している。ビールと音楽とサッカーがすき。
 

それぞれの始まりと変化
――まず、それぞれの活動の始まりと、これまでの変化についてお聞かせください

近藤倫生氏(東北大学 ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点 拠点長)(以下近藤氏): 東北大学のネイチャーポジティブ拠点は、育成型として2年間活動した後、2024年から10年間の本格型に移行し、現在2年目を迎えています。

当初は「ネイチャーポジティブがビジネス創出に繋がる」という仮説からスタートしました。しかし実際に活動してみると、公共部門との相性が良いことが判明し、企業とのネイチャーポジティブビジネスやスタートアップの大量創出といった初期の見通しは、現実には簡単ではないことがわかってきました。

この2年間は、拠点の目標達成には大学の仕組みや人材を大幅に変える必要があると認識し、その変革に注力しています。私自身も、研究における役割を大きくシフトさせました。以前は自分で手を動かす研究や論文執筆が中心でしたが、現在はアイデア出しと方向性決定に注力し、データ取得や解析は若手研究者に任せています。研究成果の「価値化」と社会への普及に関心が高まっているんです。

末次貴英氏(エコシステム社会機構 代表理事)(以下末次氏): ESAは、もともとサーキュラーエコノミーの文脈だけで始まりました。2017年頃から九州で声をかけ始め、九州サーキュラーエコノミーパートナーシップ(K-CEP)という形でスタートしたんです。

しかし、サーキュラーエコノミーだけでは限界があることに気づきました。もう少し広い文脈で捉え直す必要があったんです。長く続いてきた地球の秘訣はエコシステムにある、循環の自然の生態系の中にヒントがあるという思いから、「エコシステム社会機構」という名前にしました。

国も地方自治体も企業も、それぞれの文脈と時間軸と視野で利害がなかなか一致しない。その隙間や余白、時間や視野のズレをバッファー的に集められるような場所が必要だと考えたんです。サーキュラーだけじゃなく、自然資本と社会関係資本が循環の仕組みによって溜まっていくことが大事だと。

南三陸という共通の原点
――お二人とも南三陸との関わりが深いそうですね。

近藤氏: 東北大学に移ってきたのが2018年頃で、当時はネイチャーポジティブという概念もなく、社会共創もあまり考えたことがありませんでした。しかし東北大学はもともと南三陸町と連携があり、震災後のグリーン復興に関わっていたんです。

ある日、南三陸で中心的に活動されている太齋さん(太齋彰浩さん/一般社団法人サスティナビリティセンター代表理事)とお会いする機会があって、それがきっかけで南三陸に関わり始めました。実際に現場に行って、漁協の委員長さんから「鮭が帰ってこないんです。先生は魚の先生でしょう? どうしたらいいですか?」と聞かれた時、全然答えられなくて。それが社会課題に入り始めたきっかけですね

末次氏: 私たちも南三陸で循環の仕組みを作る活動をしていました。震災でインフラがなくなり、避難住宅に行った被災者の方々が、リユースステーションを拠点にバラバラになっていた地域自治を再構築していったんです。

お年寄りから子供まで、性別・年齢関係なく、ゴミは生きていれば必ず出る。それをステーションに持っていったら人に会える。家から出たくない人も、外に出て人と会って話したり笑顔になれば、それが健康に返ってくる。そこで環境と福祉がつながりました。

生態系に学ぶ「互恵性」という共通原理
――対談の中で「互恵性」というキーワードが何度も出てきましたね。

近藤氏: ネイチャーポジティブと互恵社会は非常に相性が良いんです。自然自体が一種の互恵になっている。自然の中のいろんな種類の生き物に「なんで生きてられるの?」と聞いたら、多分「他のみんながいるから」と答えるでしょう。全ての種が他の全体に依存している。

サーキュラーエコノミーも、マクロに見ると生態系の技術版を作ろうとしているように見えます。だからサイクルが大事だし、多様性が大事。行き着く先は生態系のような互恵のシステムじゃないかと思っています

末次氏: まさにその通りです。産業も何が入って、どういうプロセスで何がアウトプットされるか、全部つながっています。山から森から海から、最後のエンドユーザーに至るまで、いろんなものが絡み合っている。

資源循環の仕事をしていると、ここで資源の目詰まりが起きると、川下まで含めて全部連鎖するんです。循環の仕組みを生態系に学ばなければいけないし、見えないものを価値として認識し、それを顕在化させることが重要です。

近藤氏: 生態系と経済システムは本当にいろんなところが似ているんですよ。拡大再生産すること、ある環境下で勝ち始めるとどんどん勝っていくけどどこかで急にダメになること、究極的には互恵のシステムであること、複雑化しながら発展することなど。

個々の生き物は好き勝手やっている、ある意味セルフィッシュな世界なんだけど、それがどういうわけか互恵の社会になってしまう。人間も究極セルフィッシュなところがあるから、ある種の道筋を作ってあげれば、みんながセルフィッシュに動いた結果、互恵になるような仕組みがあるんじゃないでしょうか。

多様性と「揺らぎ」の重要性
――生態系における多様性の役割についても議論されていましたね

近藤氏: 自然はサイクルを作っていますが、最後の最後のところ、例えば植物なら植物にもいろいろいる、分解する生物も色々いる。「ここがダメなら、まあお前やれよ」みたいにして安定性を保っているんです。多様性がないとすごく不安定になります。

以前、エコスフェアという水槽が売られていました。水の中に小さなエビと藻が入っていて、太陽光に当てておけば藻が育ち、それをエビが食べ、糞を微生物が分解する仕組み。でもあれは単純すぎて2年くらいしか持たないんです。

末次氏: N対Nの多様性の中で、カオス的な感じの中で循環する仕組みを作る。一対一対一対一で5人で回しましょうというのは基本的にうまくいかない。エントロピーが増大していく中で、どう収束させるメカニズムを保ちながら作っていくか、動的平衡的な循環が作れるかがポイントです。

近藤氏: 無駄は大事なんです。以前研究したことがあるんですが、パプアニューギニアの鳥が派手な色を持っていたり、カブトムシの角があったり、これらは種の生産にはあまり役立っていない、無駄なんです。でもそういう無駄があると他種が共存する、多様性が維持されるんです。

無駄のおかげで多様性は維持され、多様性は思ってもないことが起きた時にシステム全体を救います。

末次氏: 多様性を抱えるのは、綺麗な話じゃない。痛みを伴うし、一種のコストに見えます。でもそのコストをどう吸収するか。社会のベネフィットは何か、社会のコストは何か、サーキュラーがどうとか、ネイチャーがどうとかじゃなくて、もっと広い意味で考えられたら面白いですね。

社会関係資本という共通の鍵
――両者の接点として「社会関係資本」が重要だという話もありました

近藤氏: ネイチャーポジティブをどうやって実現するかを考えた時、実はサーキュラーエコノミーや再生エネルギーはすごく良い方法になるんです。ネイチャーポジティブを考慮したサーキュラーエコノミーを作ることができるはず。

サーキュラーエコノミーと自然再生エネルギーが完璧な状態になった社会を想像すると、何が経済や社会を律速するかというと、多分それは自然じゃないでしょうか。技術循環は100%回したいけれど、自然循環の方は人間の手でどうにかなるものじゃない。ネイチャーポジティブがうまくいくと、サーキュラーエコノミーがうまくいった時の上限を定めることになる。だから両者が一緒に進んでいかないと高みに到達できないんです。

末次氏: 企業や自治体が生き残るには、関係性の資本、ステークホルダー・ケイパビリティが高くないといけない。そのケイパビリティをどう高めるかのデザインが、サーキュラーやネイチャーでできていれば、小さな浮き沈みはあっても、長期的には続いていける。

近藤氏: 良い社会関係資本は、ネイチャーポジティブもうまく進めるし、サーキュラーエコノミーもうまく進める。サーキュラーエコノミーとかネイチャーポジティブという言葉や目的を使いながら、一緒に高い社会関係資本を地域に作っていくというのは共通の目的になるかもしれないですね。

末次氏: プロセスに意味が出てくる。どういうステークホルダーを巻き込むか。すぐ実績にはならないかもしれないけれども、そのプロセスは絶対に資本を高くしていきます。

大学の役割と人材育成
――大学の役割についてもお聞かせください。

近藤氏: 大学は知を生み出して継承する場所だと考えています。そう考えた時、知を実装するということをどれほど大学は備えたらいいか、備えるにはどうしたらいいかを考えるようになりました。

アカデミアの世界では、NATUREやSCIENCEに論文が載ると偉い、研究費を取ってくる先生は偉いという価値観があります。すると論文を書くことと研究費を取ってくることが拡大再生産のように回ってしまい、「それが社会をどう変えますか」という視点がバサッと抜けるんです。

ネイチャーポジティブ拠点とESAが連携することで、アカデミアでは見えていなかった世界を見ている人たちとがっつり組んで対話ができる。それはすごく期待しているところです。

末次氏: 新しい概念やコンセプトを出すのは大学の役割だと思います。過去のデータベースだけならAIがやってくれる。新しい知、コンセプト、価値を出そうとされている方に会うと、刺激をもらいます。

近藤氏: 人材育成も大きなテーマです。基礎科学をやっているところだと、科学者になるための訓練はするけれど、リアルな課題との距離感、言葉になっていない人の言葉を読み取る、人を動かすといったことにはあまり触れません。

ネイチャーポジティブは、まさにそれをやらないといけない分野です。学生を参加させたり、対話型の授業をやったりすることで、学問と社会の課題感の距離を体感し、科学以外のことで、その距離をどう埋めるかを学んでもらうことが大事です。

AIと人間、そして未来の大学
――AIの発展が大学に与える影響についてもお話しされていましたね

近藤氏: 今アカデミアや科学者がやっているようなことは、かなりAIで代替できてしまうと思っています。AIはロジックを使うのが得意で、数学などはすでにAIが自前で論文を書いたりしている。

しばらくの間、AIができないことは何かというと、一つは語られない言葉について議論すること。AIは入力したものは学習するけど、みんなが思っているけど言葉にしないことは学習しない。もう一つは人を動かすこと。

アカデミアはしばらくの間、言葉になっていないことをどうやって知に入れ込むか、人を動かす知を作れるかが勝負どころになる。学術としてもブルーオーシャンだし、人材育成を考えても、大学がわざわざ人を使ってやる意味があるところです。

連携協定の意義と今後の展望
――最後に、今回の連携協定の意義と今後の展望をお聞かせください

末次氏: 一番の意義は、社会にどう開いていくかということです。NP拠点と組むことによって、より社会に開いていくことができる。接点の多さ、具体的な実装の形の具体性を上げることができると期待しています。

近藤氏: ネイチャーポジティブは自然だけの話じゃない。自然システムと社会経済システムをうまくつないで、今までと全然違う新しい自然社会経済システム複合体をどうデザインして作るか、という話です。

ネイチャーポジティブ拠点は自然側の人は強いけれど、リアルな社会側のインプットは足りていない。リアルな社会側、経済側のシステムを一生懸命考えてきた人と組めることで、新しい全体像を描けるという期待があります。

大学は知を作ったり継承することは得意だけど、社会側にどんどんインストールしていくことは必ずしも得意じゃない。でもそこが大学の課題だし、そこをやらないと大学の価値が出てこない。社会に入れるところをESAは一緒にやれるに違いないという期待があります。

末次氏: これから、お互いにイベントをしていく中で、フィールドが生まれ、セルフィッシュ(主体的)に関わってくれる人たちが生まれ、そこにテーマが芽吹くようになるといいですね。

近藤氏: サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブの共通点、同じ視点の先に何があるかを探っていったら、社会関係資本が出てきました。それぞれのコミュニティがぶつかり合いながら、新しいカルチャーを作れる可能性がある。コミュニティとコミュニティが重なり合うことで、化学変化の接点は表面積が大きくなり、いろんな関わりがつながっていく。

ネイチャーポジティブとサーキュラーエコノミー。一見異なる領域に見えるこの2つが、実は互恵性、多様性、社会関係資本という共通の原理で結ばれていることが、この対談から浮かび上がってきました。

「ネイチャーポジティブって言いながら、もうネイチャーポジティブじゃない」「サーキュラーエコノミーって言いながら、エコノミーだけの話をしているわけじゃない」――両者が語るように、それぞれの概念はすでにその枠を超え、より広い社会変革のビジョンを示しているのかもしれません。

この連携が、どんな新しい概念を生み出し、どんな社会の変化をもたらすのか。南三陸から始まり、仙台、黒部、そして全国へと広がっていくこの取り組みに、今後も注目していきたいと思います。
 

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